コンクリート診断士試験の解答例/記述式問題B 建築系B-1

 鉄筋コンクリート造建築物は、建築時期によってコンクリート強度の設計基準が異なり、古いものでは、将来的な間取りの変更や設備の更新を見据えていないものも存在する。様々な年代や基準のもとに施工された建築物を維持していくには、コンクリート診断士として、経年劣化を調査によって適切に判断し、補修・維持管理していくことが重要である。

コンクリート診断士試験の解答例/記述式問題B 建築系B-1 1

B11. RC造建築物の、中性化の調査方法、補修と対策、維持管理計画 (1,200字)

調査方法

 中性化の調査方法としては、「目視調査」「鉄筋被りの調査」「中性化深さの測定」「鉄筋腐食状況の調査」がある。
① 目視調査
 中性化が進み、鋼材の腐食が進行している場合、鉄筋の腐食膨張によりコンクリートにひび割れが生じる。さらに劣化が進行すると、被りコンクリートの剥離・剥落、鋼材の断面欠損が発生する。目視調査ではこれらの変状を観察する。
② 鉄筋被りの調査
 設計図書や工事記録等の資料を調査し、「鉄筋被り」や「水セメント比」を調べる。これにより、目視調査で確認された変状が中性化に起因するものか否かの可能性を把握できる。
③ 中性化深さの測定
 上記①②により中性化が推定される場合、コンクリートの劣化予測の観点から、「中性化深さ(中性化の進行度)」を測定する。
 測定方法には「フェノールフタレイン法」と「示差熱重量分析による方法」がある。
フェノールフタレイン法は、フェノールフタレインの1%エタノール溶液を噴霧し、赤紫色に呈色する「未中性化部」(pH10以上)と、着色しない「中性化部」を調べる方法である。簡便な方法で断面を連続的に把握できるため、多用されている。
 示差熱重量分析による方法は、コンクリート微粉末試料を採取し、示差熱重量分析装置を用いて水酸化カルシウム量・炭酸化カルシウム量を測定するものである。連続的な測定ができないという短所があるが、定量的分析に優れており精度も良いため、フェノールフタレイン法の測定結果を補足する形で用いられことが多い。
 一般に、中性化深さのみを測定する場合は「はつり法」を採用し、「鋼材腐食状況の調査」を同時に行う。圧縮強度試験や塩化物含有量試験も併せて行う場合は「コア採取法」を行う。また、近年では「ドリル法」が提案されており、これにより「構造物への調査に伴う破壊影響の軽減」「試験方法の簡便化による広範囲における中性化深さの分布状況の把握」が図られる。特に建築物の場合、試験による破壊影響は所有者の心理的抵抗を和らげる効果や、調査コストを軽減する面で有効である。
④ 鉄筋腐食状況の調査
 鋼材の腐食原因が中性化と分かれば、内部の鉄筋の腐食状況を調べて耐久性能を診断する必要がある。腐食状況は「鋼材腐食量調査」を行い、進行状況や進行速度予測には「自然電位法」「分極抵抗法」を用いる。

補修と対策

 中性化による耐久性の低下を防ぐには、「中性化速度の低減」「鋼材の防食」が必要である。
 伸展期では鋼材の腐食が始まっており、補修工法としては「表面被覆」「ひび割れ補修」「表面含浸」「断面修復」が有効である。
 加速期ではひび割れ進行が急速に進んでいるため、早期に「剥落防止対策」を行った後、剥離部をはつり落とし、「断面修復」を行う。
 劣化期に入ると、鋼材の断面減少により耐荷能力の減少が懸念されるため、「打変え」や「補強検討」(巻き立て、FRP接着等)を行う。

維持管理計画

 中性化の潜伏期では外観上の変化がない。そのため、定期的に中性化深さ調査を行い、中性化残りを把握して劣化予測を行うことが重要である。また、劣化予測結果に基づき、ひび割れが発生する前の潜伏期の段階で「再アルカリ化」の予防保全措置により、補修コストの低減、長寿命化を図ることが有効である。

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B12. RC造建築物の、乾燥収縮、温度変化の調査方法、補修と対策、維持管理計画(1,200字)

調査方法

 乾燥収縮や温度変化が原因となる変状は「ひび割れ」が主である。ひび割れがさらに進行して、鉄筋腐食、断面不足等に繋がると、部材の耐荷性能が不足し「たわみ・変形」が生じる。
 乾燥収縮は、コンクリート中の水分が蒸発することによりコンクリートが収縮する現象であり、自己収縮が概ね完了した後に生じる。建築物の場合、土木構造物に比べて部材断面が小さく、ワーカビリティーを確保するために単位水量が高い傾向があり、乾燥収縮を生じやすい。そのため、設計図書や工事記録等の資料調査によるコンクリート配合の把握も重要となる。
 温度変化は、建築物の環境温度の変化や、部材両面の温度差によるものである。これには日射条件、気候条件、部材の方向(方角)などが関係してくるため、ひび割れの発生状況とこれらの諸条件を踏まえた調査が必要となる。
① 外観目視調査
 ひび割れは、外観目視調査により「ひび割れパターン」「ひび割れ幅」などを調査する。クラックスケールやコンベックスを使用する方法が一般的であるが、近年ではデジタルカメラで撮影した写真を画像処理して、より詳細なひび割れの発生状況を把握する手法が導入されている。
 乾燥収縮や温度変化が原因となるひび割れは、「開口部のひび割れ」「梁を分断するひび割れ」「上層階斜め方向のひび割れ(八字形)」「下層階端部スパン斜めひび割れ(逆八字形)」「中間部鉛直方向のひび割れ」といった規則性を有していること、及びひび割れが貫通していることが特徴である。また、部材が南向きに面している箇所では、日射により温度変化が大きくなるため、ひび割れが多く発生する。
② たわみ・変形
 建築物のたわみ・変形を評価する際には「たわみスパン比」が評価項目となる。目安としてはたわみスパン比が「1/300未満であれば健全」と区分し、それ以上の場合は補修・補強の検討が必要となる。

補修と対策

 乾燥収縮、温度変化によるひび割れについては、部材性能に与える影響の程度を評価して補修の要否を判断する。具体的には「ひび割れ幅」に対して、「塩害・腐食環境下」「一般屋外環境下」「土中・屋内環境下」の各環境条件に応じた区分が定めらえている。
 ひび割れ補修工法には、「ひび割れ被覆工法」「注入工法」「充填工法」などがある。
 ひび割れ被覆工法は、微細にひび割れに対して追従性の良い表面被覆材を塗布する工法である。
 注入工法は、エポキシ樹脂などの有機系、ポリマーセメント系などの注入材を低速低圧で注入するものである。
 充填工法は1mm以上の比較的大きなひび割れに適用するもので、ひび割れに沿ってコンクリートをカットして、その部分に補修材を充填するものである。

維持管理計画

 乾燥ひび割れは、コンクリート打ち込み直後に発生するもので、通常は施工後数年で成長が終了する。したがって、特に施工後の早い段階でひび割れを調査し、補修を行っておくことが耐久性の確保において重要となる。一方、温度ひび割れは進行性であるため、継続的な観察が重要となる。

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B13. RC造建築物の、ひび割れの調査方法、補修と対策、維持管理計画 (1,200字)

調査方法

 調査には、建築物の基本性能を評価するための基本調査と、劣化の原因や劣化状況の把握を目的とした詳細調査がある
 基本調査は、設計図書、施工記録、供用後の維持管理、補修・補強記録などを収集する書類調査と、目視、打音の確認、寸法測定等の外観調査などがある。これらの情報から、建築物の現況性能を判断する。
 詳細調査では、基本調査の結果から特定した調査個所に対し、非破壊、破壊調査等により建築物の劣化原因と定量的な劣化状況を把握し、将来予測も踏まえ、補修工法を選定する際の判断材料とする。

補修と対策

 鉄筋コンクリート造の建築物は、経年により外壁にひび割れ等が生じ、その影響が鉄筋コンクリート躯体内部に至り、構造耐力が低下する。
 劣化には「ひび割れ先行型」と「鉄筋腐食先行型」の2種類があり、補修方法も異なる。
 「ひび割れ先行型」は乾燥収縮等によりひび割れから劣化因子が侵入するタイプである。ひび割れ幅とひび割れの挙動から、劣化の程度に応じて充填、注入、表面被覆を行うひび割れ補修工法を選択する。
 「鉄筋腐食先行型」は、中性化、塩害などが原因で、鉄筋腐食が進行し、それに伴いひび割れが発生・拡大するタイプである。
 鉄筋の腐食の進行度合いにより、表面被覆を行う「中性化抑制工法」や「塩害抑制工法」、はつりから断面修復までを行う「鉄筋腐食補修工法」などがある。

維持管理

 維持管理には、日常の巡回によって行う「日常点検」、5~10年の間隔で定期的に細部に渡って点検する「定期点検」、地震や豪雨などの自然災害が発生したときに行う「異常時点検」、の3つが主に挙げられる。点検結果は維持管理記録として整理し、劣化の進行程度が時系列で把握でき、補修の判断材料となるような点検を行うことが望ましい。
 最近では1997年に日本建築学会で建築物の寿命を3倍に延伸という会長声明が発表されたり、2009年の「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」で寿命200年の構造物が提唱されたりと長寿命化への取り組みが盛んである。維持管理と保全を適切に行うことで、建築物の従来の機能を損なわず、美しく維持することが課題となる。

B13. RC造建築物の、ひび割れの調査方法、補修と対策、維持管理計画 (1、200字)

 ひび割れ調査に当たっては、「鉄筋コンクリート構造物に生じる全てのひび割れが構造物の要求性能に対して有害というわけではない」という認識が必要である。したがって、発生したひび割れが建物や部材の使用性能に対して、有害なのか無害なのかを適切に判定しなければならない。
 また、建築物の場合、耐荷性能に悪影響を及ぼす場合だけでなく、漏水、たわみ、美観といった点も使用者の要求性能に含まれることに留意しなければならない。

発生原因

 耐久性能において有害なひび割れは大きく3種類に分けられ、「鋼材腐食先行型」「ひび割れ先行型」「劣化ひび割れ」がある。
1. ひび割れ先行型
 施工条件(コンクリートの沈下や支保工の沈下、コールドジョイント等)、環境条件(温度、湿度、凍結融解等)、地盤条件など様々な要因により、ひび割れがまず発生し、ひび割れが鋼材の深さにまで達した段階から鋼材腐食が始まるケースである。
 ひび割れ発生時点では鋼材腐食はまだ始まっていないため、後述の「鋼材腐食先行型」に比べると、発生時における耐久性への影響度は小さい。
 ただし、ひび割れ幅が大きく、鋼材方向に沿ったパターンである場合は、鋼材腐食を早める。また、発生したひび割れが「進行性」であるかどうかを調査することは重要なポイントとなる。
 建築物の場合、土木構造物に比べて被りが薄いため、壁や床版などに鉄筋に沿ったひび割れが広範囲に発生する可能性がある。

2. 鋼材腐食先行型
 塩害等の原因で鋼材が腐食し、腐食の膨張圧によって被りコンクリートにひび割れが生じるものである。ひび割れができることにより鋼材の腐食速度がさらに早まるため、ひび割れ発生~被りコンクリートの剥離・剥落までの期間が「ひび割れ先行型」に比べて短い。この場合、ひび割れ発生時点ですでに鋼材腐食が相当に進んでいるため、補修対策は「ひび割れ先行型」よりも難しくなる。

3. 劣化ひび割れ
 ひび割れが進行性のもので、変状原因がアルカリシリカ反応、凍害、化学的侵食などにあるケースである。この場合、劣化によってコンクリートの組織構造は継続的に脆くなっていき、放置しておくと耐力不足、部材の崩壊へと繋がる。

補修と対策

 ひび割れ補修の目的は、ひび割れを塞ぎ、水分供給や空気の侵入を抑制する、さらには、部材の一体化を図ることにある。ただし、鋼材腐食が始まっている場合は、鋼材が露出する深さまで不良部分をはつり落としてポリマーセメント等で埋める「断面修復工法」が必要となる。
 補修工法としては次の3つに分けられるが、ひび割れ原因を特定して、原因に対して適切な補修工法・補修材料を選択しなければならない。
1. ひび割れ被覆工法
 幅0.2mm以下の微細なひび割れに対して、ひび割れに追従する材料をコンクリート表面に塗布する工法である。
2. 注入工法
 低圧低速でひび割れ補修材(エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリマーセメント等)を注入することにより、耐久性・防水性の向上や部材の一体化を行うものである。
3. 充填工法
 幅1.0mm以上の大きなひび割れに対して、ひび割れに沿ってコンクリート表面をカットして補修材で埋める工法である。

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コンクリート診断士試験
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