鋼構造物の設計や施工において、鋼材の重量や数量、さらには溶接部の強度計算など、正確な数値の把握は極めて重要です。これらの計算は、構造の安全性やコスト管理にも直結するため、規準書に基づいた知識と実践的な理解が求められます。本ページでは、重量計算の基本から塗装面積の算出、アングルや溶接部の強度計算まで、鋼材設計に必要な知識を幅広く解説しています。

鋼材の重量計算の方法
鋼材の重量計算は、断面積に長さをかけて、その鋼材の密度をかけて計算します。JIS規格に定められているような標準的な鋼材は、メートル単位の単位重量表があるため、長さをかけるとすぐに算出できます。また、仮に特殊な形状をしていたとしても、その鋼材を扱う会社には、サイズ表や重量表があり、即座に計算できるようになっています。
これは、鋼材のやりとりをする際に、重量単価で金額を決める習慣があるためです。ちなみに、縞鋼板などの鋼板は、一定の断面のものもあれば、不均一な断面積のものもあるため、平米単位の重量表があります。
鋼材の強度計算には、応力計算や座屈計算などがあります。応力計算では、鋼材にかかる負荷と、鋼材のもっている引張強度を比較する際に計算します。材料は、弾性限度範囲までの荷重であれば、荷重を取り除くと、元の形状に戻る性質があります。
しかし、弾性限度を超え、降伏点に達すると、材料に亀裂が入ります。その後、さらに荷重を上げていくと、やがて破断します。この材料にかけれる最大荷重を引張強度といいます。
この引張強度は、材料の断面形状に大きく影響します。同じ材料であっても、力がかかる断面の形状が異なれば、引張強度も異なります。材料選定する際は、この弾性限度内で使用できるように、鋼材の断面を決定します。
鋼材の重量計算、数量計算のポイント
鋼材の数量計算に当たっては、断面積に長さをかける重量計算のほか、定尺の板材からワーク分を取り出す鋼材の切断計算が重要な作業となります。
鋼材の重量計算の手順
鋼材重量の計算手順としては、まず材質を入力します。鉄・ステンレス・アルミニウム・銅など材質によって、当然のことながら単位重量が異なります。次に鋼材の断面形状を入力します。任意形状の鋼板のほか、H形鋼・山形鋼・溝型鋼などの型鋼、角パイプ、棒鋼などは固有の断面積となっています。そして最後に寸法を入力することで重量の算出条件が取り揃います。
JIS規格に定められているような標準的な鋼材は、メートル単位の単位重量表があるため、長さをかけるとすぐに鋼材重量が算出されます。すなわち、「一本当たりの鋼材重量=鋼材の長さ×鋼材の単位重量」となります。
たとえ鋼材の重量表がなくても、重量は計算で求めることができます。すなわち、「一本当たりの鋼材重量=鋼材の断面積×鋼材の長さ×鋼材の比重」となります。この場合の鋼材の比重としては、鉄が7.85、ステンレスは7.93、アルミニウムは2.70です。
断面積については、丸鋼の断面積は、半径×半径×3.14 で計算し、板鋼の断面積は、厚み×幅 で計算します。
コイルなどは、ロールごとに重量が異なるため、トラックごとに重量計に乗り、実重量を計測しています。
鋼材重量計算に使用できる無料のフリーソフトはたくさんあります。また、フリーでダウンロードできるexcelのテンプレート、ひな形ソフトに対し、どれを使えばいいのか迷ってしまうところですが、そのような場合には比較ランキングサイトでおすすめのツールをダウンロードして参考にするとよいでしょう。
いろいろ比較して自分に合ったソフトを選び、それらを有効に活用することで、鉄板重量計算をはじめ鋼材の数量計算における効率化を図ることをおすすめします。
効率のよい鋼材切断計算
鋼材の切断計算は、重量計算のデータを利用して鋼材を集約した後、定尺データにより鋼材の取り合いを考慮して材料取り計算を行います。
鋼板からワークを切り出す場合には、一般に定尺の板材から切り出しが行われ、この作業によっては材料ロスが生じるため、鋼材の切断計画を行うには、従来、熟練の経験と勘、そして相当な時間が必要となっています。
プレス加工による定尺材とは、市場で流通している標準板材のことで、サイズ・寸法には決まりがあります。サイズを指定して購入するスケッチ材や、ロール状態につながっているコイル材に比べると、一点ものや比較的サイズの小さな金属部品や製品に使われることが多くなります。
定尺材から工事で必要となる材料を一枚の鋼板に取りまとめる作業を「材料の板取り」と言います。 いかに無駄のない材料取り計算を行うか、すなわち、一枚の鋼板に対してロス(捨てる部分)が少なく最適に行うことで、材料の無駄が軽減されることになります。
鋼材の取り合いを考慮した鋼材切断に関しては、フリーでダウンロードできるexcelのテンプレート、ひな形ソフトを活用することで、材料取り計算を簡単に実行することができます。人気のソフトやフォーマットを探すには、比較ランキングサイトなどを有効利用することで、より効率の良い鋼材切断計算が可能となり、コストの削減が図れることは間違いないでしょう。
ボルトや溶接の数量計算は部分ごとに規定されている
まず鉄骨と一言で説明しても実際は多くの材料に区分されています。一般的に使われているのはSS400、SN400A、SN490B、SM490Aなどが多く使われています。これらの数量に関する算出はJISに規定されているので、かならずJISに基づき行う必要があります。
ボルトや溶接、鉄板等の数量計算は単純ではない
鉄骨構造では鉄骨同士の接合に必ずボルトを使用しますが、その個数や質量を換算するのは簡単ではありません。基本的に図面や設計図書に記載のある規格や形状、及び寸法ごとに個数や質量に換算することが必要です。特にボルトの長さは基準寸法が決められていますので中途半端な寸法にならないように注意することが必要です。
溶接も同様で簡単に長さから求めることはできません。原則として溶接の種類ごとに断面形状の長さを求め、すみ肉溶接脚長6mmに換算した長さから数量を求めることが必要です。ただし、特殊な溶接については断面ごとの長さを求めても良いことになっています。
鉄板については原則として面積を計算することが必要となります。基本的には小数点以下第三位まで計算することが必要となります。注意しなければいけないのは、鉄板は必ずしも計算しやすい形状ではないということです。例えばガセットプレートなどは台形状の形状となっている事が非常に多く、単純に計算はできません。その場合は最小長方形面積を求めることで計算することができます。
ボルトの為の孔明け、開先、スカラップ等は計算しなくても可
鋼材には必ず何らかの加工が行われます。鉄骨構造ではボルトを通すための孔を開けたり、溶接する時に溶け込みなどを考慮して開先を設けたり、溶接のためにスカラップを設けたりします。
基本的にはこれらは欠損部分となるので強度的に問題がありそうですが、これらの欠損はないものとして計算していきます。ただし、ダクトについては注意が必要です。面積0.1m2以下のものは同様に計算しませんが、ダクト穴補強の補強材についての計算は必要ですので注意しましょう。
鉄骨の数量計算による割増と各部分の規定
鉄骨材料の数量は単純計算よる割増が必要
鉄骨材料というのは設計図書通りの計算数量で良いいこととはなりません。基本的に形状や使用上記に合わせて加工するので、若干割増して計算します。ただし、ものによってはロスが発生しないものがあるので0%の物もあります。
このように鉄骨構造に使用する多くの部品も材料取り計算や鉄板重量計算や部品ごとの計算が必要です。これらをいちいちExcelにまとめて自分なりのテンプレートを作成するのも良いですが非常に手間がかかるので、フリーソフトなどで代用できないかを検索してみるのがおすすめです。
インターネット上では役に立つアプリやツール、ソフトウェアが無料で公開されているので自分で比較してみるのがおすすめです。
柱の長さは下端、上端の位置をはっきりと区別しよう
柱の長さは基準となる位置をしっかりと判別することが必要です。まず設計図書をしっかりと参考にして、各節の接合位置間を基本的な長さとしましょう。最上部の柱にあっては、ベースプレート下端または柱頭上端からの接合位置までを長さとすることが必要です。
他の柱を構成する各部材は、それぞれ区分して設計図書から計算することが必要です。また、柱の計算としては高力ボルトやフィラープレートなどは後から計算することが必要です。
梁、ブレースは基本的には同じ計算方法でよい
梁やブレースは基本的に違うものですが、基本的に計算方法は同じです。梁の長さは鉄骨柱または鉄骨梁の内寸法の長さとして計算することが必要です。構成部材に関しては設計図書を参考に求めましょう。また、高力ボルト等の接合部剤は柱と同様にあとから計算することになります。
ブレースに関しては基本的に梁と考えは同じですが、ブレースの場合はターンバックルと呼ばれる部材で接合されることがあります。ターンバックルに関しては欠損部として捉えることもできますが、基本的には欠損部とは考えずにターンバックルも含めた長さをブレースの長さと考えます。
このように各部材の長さの計算も設計図書から算出していくことが必要ですが、非常に複雑になりがちです。Excelなどで自分で計算式を作るのが面倒という人には、インターネット上に公開されているフリーソフトなどを使用することがおすすめです。
鋼構造設計に関する規準書
建築および土木の分野で多用される鋼材を用いた構造物の設計と試験に関するガイドラインは、日本建築学会によって策定されてる。以下にその主要な規準書を紹介する。
鋼構造の許容応力度設計基準
日本建築学会が策定した「鋼構造の許容応力度設計基準」では、鋼構造物の強度設計における詳細な指針が示されている。許容応力度設計法は、構造物が外力に対して適切に耐えうるよう、各部材の応力度が指定された許容値を超えないことを保証する方法である。この基準書は、構造物の安全性を確保しつつ、経済的な設計を実現するために不可欠な指針となっている。
許容応力度設計規準の実用ガイド
日本建築学会が提供する「許容応力度設計規準の実用ガイド」では、具体的な設計手法だけでなく、設計プロセス全体を通じた実例や注意点が詳述されている。設計者は、規準書に基づいて耐久性や地震時の性能を考慮しつつ、最適な設計を行うための具体的な指針を得ることができる。このガイドは、設計の現場で直面する課題や疑問への対処法についても詳述しており、実用的な視点で設計を進めるための重要な資料である。
鋼構造設計基準:許容応力度設計法
「鋼構造設計基準 許容応力度設計法」は、日本建築学会が提供するこれらの基準書の中でも特に重要な位置を占めている。この文書は、設計の全過程を詳細に説明し、構造安全性の確保を最優先に考えるためのガイドラインを提供している。設計者は、この規準書に従うことで、法令遵守だけでなく、より効率的かつ安全な設計を行うことができる。
鋼構造の設計規準書
こうした規準書は、「鋼構造の設計規準書」として総称され、多岐にわたる設計プロセスにおいて不可欠な資料として認識されている。これらの規準書に基づいて設計を行うことで、鋼材を用いた構造物の信頼性と安全性を高めることができる。特に、許容応力度設計法を用いて適切な応力解析と部材選定を行うことで、経済的かつ耐久性に優れた建築物の実現が可能となる。
アングルの強度計算
アングル(L字鋼)に関する強度計算は、その独特の断面形状ゆえに複雑なプロセスを含む。アングルの強度計算方法について、ステップバイステップで詳しく説明する。
アングルの基本構造の理解
アングルはL字型をしており、この形状によって重心位置が断面内に沿っていないという特長がある。H形鋼とは異なり、アングルの重心位置は一見して分かりづらい。このため、強度計算においては、まず重心位置の特定が重要になる。
重心位置の特定
重心位置を正確に特定するためには、アングルを2つの長方形に分解する。これにより、各長方形の重心位置と断面積が求めやすくなる。
・長方形の断面積計算
アングルを構成する2つの長方形の断面積をそれぞれ求める。これは簡単に、幅×高さという基本的な計算で求めることができる。
・各長方形の重心位置計算
座標(0,0)をアングルの左下の角に設定し、各長方形の重心位置を計算する。
・全体の重心位置計算
各長方形の断面積と重心位置を掛け合わせ、その合計を全断面積で割ることで、アングル全体の重心位置が求められる。
断面二次モーメントの計算
重心位置が特定できたら、次に断面二次モーメントの計算に移ります。断面二次モーメントは、中立軸に対する材料の抵抗力を表す重要な指標です。
・長方形断面ごとの断面二次モーメント計算
各長方形断面について、重心を通る中立軸に対する断面二次モーメント(Ix, Iy)を計算する。等辺山形鋼の場合、IxとIyの値はほぼ同じになる。
・全体の断面二次モーメント計算
各長方形の断面二次モーメントを合算し、全体の断面二次モーメントを求める。
断面係数と断面二次半径の計算
最後に、強度計算のための追加指標として、断面係数と断面二次半径を求める。
・断面係数の計算
重心からアングル最外縁までの距離を求め、これを元に断面係数を計算する。
・断面二次半径の計算
断面二次半径は、計算された断面二次モーメント(I)をアングルの断面積(A)で割り、その平方根を取ることで求まる。計算式は以下の通りである。
i=√I/A
一連のプロセスによるアングルの強度計算
アングルの強度計算は、その特有の断面形状ゆえに複雑ではあるが、適切にステップを踏むことで正確な計算が可能である。重心位置の特定から始まり、断面二次モーメントの計算、そして断面係数と断面二次半径の計算まで、一連のプロセスを通じてアングルの強度を詳細に評価することができる。
鋼材の単位重量と重量表
建設や製造業において、多様な鋼材が使用されることは、多くの人々が知るところである。しかし、それぞれの鋼材が持つ単位重量と重量表については、一部の専門家のみが熟知している状態である。H型鋼、I型鋼、等辺山型鋼、不等辺山型鋼、溝型鋼、角型鋼管の各種鋼材の単位重量と重量表に焦点を当て、その特徴や用途、選定ポイントについて詳述する。
まず、鋼材の単位重量とは、特定の鋼材の一定の長さまたは断面積に対する重量を指し、設計や施工の際に極めて重要な役割を果たしている。鋼材は種類ごとにその重量は異なり、それぞれが持つ特性や用途をと重量表から理解することが求められる。
H型鋼の単位重量と重量表
H型鋼は、その名の通り断面がH字型をしている。この形状は、高い強度を誇り、建築や土木工事の柱や梁として広く使用されている。単位重量は断面積や肉厚によって異なるが、汎用的なサイズでは、1メートルあたり約30Kgから70Kgの範囲である。
I型鋼の単位重量と重量表
I型鋼は、H型鋼に比べて縦方向の圧縮強度が高いのが特徴である。主に床や天井の梁、橋桁の補強材として利用される。I型鋼の単位重量は、H型鋼よりも軽めで、同様にサイズに依存して1メートルあたり20Kgから60Kgとなる。
等辺山型鋼(アングル)の単位重量と重量表
等辺山型鋼は、その断面が等辺の山型をしており、「アングル」とも呼ばれている。補強材や接合部品として広く使用され、サイズごとに標準化された重量がある。通常、1メートルあたり約5Kgから20Kgの範囲で変動する。
不等辺山型鋼の単位重量と重量表
不等辺山型鋼は、等辺山型鋼と異なり、上下の辺の長さが異なるタイプの山型鋼である。応用範囲は多岐にわたり、特に不均一な荷重がかかる部位に適している。単位重量は、その断面寸法と厚みによりますが、1メートルあたり約6Kgから25Kgである。
溝型鋼(チャンネル)の単位重量と重量表
溝型鋼は、U字型の断面を持ち、横荷重に対する強度が特徴である。床梁や垂直支持材として使用されることが多い。溝型鋼の単位重量は製品ごとに異なるが、一般的には1メートルあたり約15Kgから50Kgである。
角型鋼管の単位重量と重量表
角型鋼管は、その断面が正方形または長方形の中空構造を持つ鋼材である。軽量でありながら高強度を持ち、構造物のフレームや柱などに用いられる。角型鋼管の単位重量は、断面の大きさと肉厚に依存し、1メートルあたり10Kgから40Kg程度である。
鋼材の塗装面積の計算
鋼材を使った建造物や部品の製作において、塗装は必須の工程である。塗装は錆びなどの腐食を防ぎ、美観を保つためにも非常に重要である。特に工業用鋼材では、塗装面積を正確に計算することが求められる。しかし、さまざまな形状の鋼材ごとに計算方法が異なるため、正確な面積を導き出すには、それぞれの特性を理解する必要がある。ここでは、代表的な6つの鋼材について塗装面積の計算方法を解説する。
H型鋼の塗装面積
H型鋼はその名の通り、断面がアルファベットのHの形をしている。この形状は強度と安定性に優れており、建築分野で広く使用されている。H型鋼の塗装面積を計算する際には、フランジ部分とウェブ部分の面積を別々に計算し、それらを合計する方法が一般的である。
I型鋼の塗装面積
I型鋼もH型鋼と似た形状ですが、フランジ部分がやや薄めである。これらの鋼材も建築や橋梁に広く使用されている。I型鋼の場合も、フランジとウェブを分けて計算し、それぞれの塗装面積を合計する。
等辺山型鋼の塗装面積(アングル)
等辺山型鋼(アングル)は、断面が等長の直角三角形の形を持ち、一辺が短い方である。橋やビルの補強材として頻繁に使用されている。塗装面積を求める場合、各辺の長さと高さから算出する。
不等辺山型鋼の塗装面積(アングル)
不等辺山型鋼(アングル)は、異なる長さの直角三角形断面を持つ鋼材である。この形状は特定の用途に適した強度特性を持ち、特殊な補強材として使用される。塗装面積の計算時には、全ての辺の長さを考慮に入れる必要がある。
みぞ型鋼(C型鋼)の塗装面積
みぞ型鋼は、断面が「みぞ」や「C」の形をしており、腰壁やパーティションの骨組みなどに使われる。この形状は他の鋼材に比べて曲げやすく、適応性が高い。みぞ型鋼の塗装面積は、内側部分も含めて全体を計算する必要がある。
角型鋼管の塗装面積
角型鋼管については、断面が正方形または長方形の鋼製パイプで、機械構造や建築用の骨組みとして広く使われている。角型鋼管の塗装面積は、外周面と内周面を別々に計算し、それらを合計する方法が一般である。
鋼材の塗装面積の計算
鋼材の塗装面積を正しく算出するためには、各鋼材の特性を理解し、それぞれの形状に合わせた計算式を用いる必要がある。これにより、塗装のコストを正確に見積もることができ、材料の無駄を抑えることが可能となる。塗装面積の正確な計算は、プロジェクトの成功に寄与する重要な要素である。
溶接部の強度計算の方法
突合せ溶接部の強度計算
突合せ溶接部は、母材と密接に融合し、一体化させることで母材以上の強度と性能を持つ溶接方法である。この溶接技術により、一般的に「溶接部」としての別途計算が求められることは少なくなっている。それは、母材自体にかかる応力に対する評価が適切であれば、突合せ溶接部は追加の計算を必要としない場合が多いからである。
突合せ溶接は特に、柱梁の接合部や、片持ち梁の端部など、曲げモーメントが顕著に作用する部位でその効果を発揮する。また、せん断力や軸力が作用する部位でも、問題なく使用することができる。これにより、さまざまな構造物に適応しやすく、設計上の柔軟性を高めることができる。
さらに、突合せ溶接部の強度計算においては、母材と溶接部が一体化することで、全体の剛性や耐久性が向上する。これにより、建築や機械設計において一貫した品質と信頼性を確保できる。したがって、突合せ溶接技術は、鋼構造物の製造や補修に欠かせない重要な技術として位置付けられている。
総じて、突合せ溶接部の強度計算は、母材の応力評価に基づいて判断されるため、その性能を確保するためには、適切な設計と施工が不可欠である。母材と溶接部が一体化することで、多様な力に対して一貫した強度を発揮し、長期的な信頼性を提供できる。
隅肉溶接部の強度計算
隅肉溶接は、接合部の強度において鋼材と同等以上の性能を発揮するが、母材と溶接部が完全に一体化しているわけではない。そのため、曲げモーメントが作用する箇所での使用は推奨されない。主に軸力のみが作用する接合部、例えばブレース接合部に適している。
重ね継手とは、2枚の板を隅肉溶接で接合する手法である。この接合方法を用いた場合、板に引張力が作用した際の溶接部の破壊強度を評価する計算が必要である。以下に、標準的な400級鋼を用いた場合の長期荷重下における溶接部の強度計算の手順を示す。
隅肉溶接部のサイズは、次のとおりとする。
・溶接の全長 : 200mm
・溶接サイズ : 10mm
のど厚の計算
のど厚とは、隅肉溶接部の有効な寸法である。
10mmの溶接サイズであれば、のど厚は次式で計算される。
のど厚 (a) = 10mm / 1.41 = 7.09mm
溶接部の許容応力度の算定
鋼材が400級鋼の場合、基準強度 (F) は235N/mm²である。
長期荷重を考慮するため、許容応力度は次のように計算する。
隅肉溶接部には引張力ではなく、せん断力が作用するため、√3で割る必要がある。
許容応力度 (F’) = 235N/mm² / (1.5 * √3) = 90N/mm²
有効長さの計算
溶接の全長から始端と終端の溶接サイズ分を控除する。これは始端と終端では溶接のミスが生じやすいからである。
有効溶接長さ (L) = 200mm – 2 * 10mm = 180mm
溶接部の耐力の算定
最後に溶接部の耐力を求める。耐力は許容応力度に溶接部の面積を乗じて次の式で計算する。
溶接部の耐力 (P) = 許容応力度 (F’) * 有効溶接長さ (L) * のど厚 (a) / 1000
= 90N/mm² * 180mm * 7.09mm / 1000
= 114kN
隅肉溶接部の強度計算のポイント
・のど厚の重要性
のど厚は溶接部の実際の強度を左右する重要な要素である。設計段階で正確に計算し、適切な溶接サイズを選定することが求められる。
・許容応力度の設定
長期荷重を考慮した許容応力度を設定する際は、安全係数の導入と応力の種類を考慮する必要がある。また、鋼材の特性として引張強度、せん断強度も理解しておくことが大切である。
・溶接の品質管理
溶接中に発生する始端と終端のスラグ、ポロシティなどの欠陥の影響を最小限に抑えるため、厳密な品質管理が求められる。
このように、隅肉溶接部の強度計算とともに、設計時のポイントや注意事項を理解することは、信頼性の高い構造物の設計に不可欠である。