トンネルは地形や地質条件、目的に応じて多様な工法が用いられます。代表的な工法には、山岳トンネルやシールド工法などがあり、それぞれ施工方法や適用範囲に特徴があります。また、トンネルの断面形状や構造、先進坑と本坑の違いも重要なポイントです。これらの基本を理解することで、計画や設計に必要な知識が深まります。施工上の留意点についても押さえておきたい内容です。
このページでは、トンネル建設に用いられる工法や構造の種類について解説しています。

トンネル建設の工法について
トンネル建設における矢板工法とシールド工法は、それぞれ異なる特徴を持ちながらも、長い歴史の中で発展し続けてきました。矢板工法は一時代を築いたものの、その技術的な制約からNATMに取って代わられました。一方、シールド工法はその効率性と安全性から、現代の都市建設で欠かせない技術として位置付けられています。今後も新しい技術が登場し続ける中で、これらの工法は進化し続けることでしょう。
トンネルの構造や地質条件に応じて、多様な工法が用いられています。それぞれの工法には独自の特長と適用分野があり、適切な選択と技術の駆使により、安全かつ効率的なトンネル建設が可能となります。
矢板工法
トンネルの建設において、矢板工法は長らく基本的な技術として用いられてきました。この工法では、掘削後の壁面に矢板を配置します。矢板には木板が使用されることが多く、特に松材の木板は「松矢板」として親しまれてきました。また、鉄板が使用される場合には「鋼矢板」と呼ばれます。これらの矢板を支保工と呼ばれる支柱でしっかりと支えることで、壁面の安定性を確保します。その後、内側をコンクリートなどで巻き立てる工程によって、強固なトンネル壁面が形成されます。この方法は日本において1980年代の東北新幹線や上越新幹線の建設まで広く採用されていました。
矢板工法の課題と実例
しかしながら、この矢板工法にはいくつかの問題点も存在しました。例えば、事前の地質調査が不十分であった場合、工期の延長や予算の増大が避けられませんでした。具体的な例は、蔵王トンネルの建設における工期延長や、中山トンネルにおける度重なる出水問題です。これらの問題により、迂回坑の建設や多数のボーリング調査が必要となり、総工費は大幅に超過しました。さらに、中山トンネルでは経路変更が生じたため、開業後に速度制限が必要となる曲線部分が生じました。
技術的不足と新技術への転換
これらの経験から、矢板工法だけでは今後の新幹線や高速道路における長大トンネルの建設に技術的な限界があることが明らかになりました。このような背景から、18世紀後半以降、技術の転換が求められるようになりました。その解決策として登場したのがNATM(新オーストリアトンネル工法)です。NATMは中山トンネルの一部で試行され、その後、日本国内で主流のトンネル工法となりました。この工法は、それまでの経験工学に依存する伝統的な手法とは異なり、計算と科学に基づいた設計と施工管理を主としています。これにより、信頼性と効率性が格段に向上しました。
シールド工法
シールド工法の基本概念
トンネル建設の別の方法として、シールド工法があります。この工法では、シールドマシンと呼ばれる大型の掘削機械を使用します。シールドマシンを先頭に設置し、掘削と同時にトンネルの壁面を構築することで、地盤の崩壊を防ぎます。この方法は特に都市部での地下鉄や道路トンネルの建設に広く採用されています。
シールド工法の実例
シールド工法の実例としては、東京湾アクアラインのアクアトンネルが挙げられます。このトンネルは東京湾の海底を通る長大なトンネルで、シールド工法によって建設されました。また、飛驒トンネルにおいては、シールドマシンに加えてTBM(トンネルボーリングマシン)工法およびNATMも併用されています。このように、シールド工法は多様な建設現場でその有用性が実証されてきました。
シールド工法のメリットと今後の展望
シールド工法の主なメリットは、地盤の崩壊を最小限に抑えながら迅速に作業を進められる点です。また、都市部での地下鉄や地下道の建設においては、周囲の建物やインフラに対する影響を最小限に抑えることができます。今後もシールド工法は、都市の発展とともにますます重要性を増すでしょう。
TBM工法(トンネルボーリングマシン工法)
TBM工法は、トンネルボーリングマシン(TBM)を用いてトンネルを掘削する技術です。この工法は、特に都市部の地下鉄工事や長距離のトンネルで多く利用されています。主要な利点としては、掘削速度が速いこと、掘削断面が均一であること、工事中の振動や騒音が比較的少ないことが挙げられます。適用例として、東海北陸自動車道に位置する飛驒トンネルが挙げられます。この巨大なトンネルは、都市間の交通を円滑にするための重要なインフラであり、TBM工法の高度な技術が活用されています。
新オーストリアトンネル工法(NATM)
新オーストリアトンネル工法、またはNATMは、掘削したトンネルの断面を迅速に吹き付けコンクリートで補強し、ロックボルトを岩盤の深部に打ち込むことで地山の持つ自然な保持力を活用する工法です。この技術は、特に地質が不安定な地域や大規模なトンネルプロジェクトに適用されます。先進的な地盤管理技法を駆使することで、安全性を確保しつつ効率的にトンネルを具現化できる点が特徴です。上越新幹線の中山トンネルは、このNATM工法を適用した代表的な例として知られており、山岳地帯を貫通する長大トンネルとしてその名を馳せています。NATM工法の採用により、堅固なトンネル構造と短工期が実現しました。
開削工法(オープンカット工法)
開削工法、またはオープンカット工法は、地表から深く掘り下げてトンネル構造物を構築し、その後埋め戻す手法です。この工法は、地表近くのトンネルや鉄道駅などの大規模施設の建設に活用されることが多く、特に初期の地下鉄建設では一般的でした。しかし、地下鉄網の拡大に伴い、より深い位置にトンネルを掘削する必要が生じたため、1970年代以降はシールド工法が主流となっています。東京メトロ南北線の後楽園駅も、この開削工法で建設された代表例です。また、開削工法とシールド工法を組み合わせたオープンシールド工法も存在し、より経済的かつ効率的にトンネルを構築することが可能です。
沈埋トンネル工法
沈埋トンネル工法は、複数のケーソン(潜函)を水底に沈ませて接続し、トンネルを形成する技術です。この技法は、川底や海底を通過するトンネルに適しており、大規模なインフラプロジェクトでよく見られます。首都高速道路湾岸線の多摩川トンネルは、この沈埋トンネル工法を駆使して建設された代表的な例です。この方法を採用することにより、水中環境下でも堅牢かつ長寿命のトンネル構造を実現しています。
トンネルの種類とその特徴
トンネルはその場所や目的によって様々な種類に分類されます。各トンネルの特性や機能について詳しく見ていきましょう。
トンネル技術はその場所や用途によって多様で、それぞれ特有の設計と技術が求められます。これにより、都市部の交通網の整備、山岳部の自然排水、海底を貫通する物流ルートの建設、水族館内でのエンターテインメントなど、多岐にわたる分野で社会に貢献しています。未来のトンネル技術も、これらの基盤をさらに強化し、ますます複雑な問題解決に挑むことでしょう。
山岳トンネル
山岳トンネルは、名前の通り山を貫通するために掘られたトンネルです。これらのトンネルは一般的に中央部分が高く、両端の出口が低くなる逆V字型の勾配(拝み勾配)を採用しています。この設計により、自然排水が可能となり、水の滞留を防ぎます。ただし、立地条件やその他の要因により、一方だけが高くなる片勾配のものも存在します。片勾配のトンネルでも自然排水は可能ですが、設計とメンテナンスが重要です。近年の技術進歩により、山中深くでも安全かつ効率的に掘削が可能となり、多様な交通インフラに貢献しています。
都市トンネル
都市トンネルは、都市部の建造物の中や地下を通るトンネルで、都市の高密度な環境に対応するために設計されています。首都高速道路の多数のトンネルや地下鉄網などが典型的な例です。これらのトンネルは、滑走路や主要道路、建物を避けて設計されることが多く、そのため様々な角度や深さで掘られます。都市トンネルは交通渋滞を緩和し、都市の動脈として機能しています。また、都市のインフラ技術の進化に伴い、安全性や効率性も向上しています。
水底トンネル
水底トンネルは、川底や海底を貫通するトンネルで、詳細については「水底トンネル」の項目を参照ください。これらのトンネルは構造上、中央部分が低くなるため、機械的な排水システムが必要です。日本では、海底の地質条件などを考慮して高い技術が求められるため、精密な計画と施工が重要です。また、水底トンネルは物流や交通の円滑化に大いに貢献しており、国際的な交流や経済活動の発展にも寄与しています。
水中トンネル
水中トンネルは、水族館の水槽の中を通る観賞用通路が主な例です。これらのトンネルはアクリル樹脂などの透明素材で作られており、訪問者がトンネルの外側の水中世界を眺めることができます。観光施設や公共アトラクションとして人気があり、エンターテインメント施設の中でも重要な役割を果たしています。このトンネルにより、水槽内の生態系を間近で観察できるため、教育的な価値も高いといえます。
トンネルの断面と形態
山岳トンネルの形態とその利点
山岳トンネルは、山の地質条件や掘削方法に応じて、その断面や形状が異なります。最も一般的なのが馬蹄型や卵型の断面で、これらの形態は地圧に対する耐性が高いという特性を持っています。特に卵型は、縦方向に強い衝撃や圧力に耐えるため、安定性を確保するのに適しています。この設計により、トンネルが長期間にわたって安定した状態を保つことができるのです。
また、このような形状のトンネルが並列して設置される場合、「メガネトンネル」と呼ばれます。この構造は、トンネル内外の圧力を均一に分散させる仕組みとしても有効です。さらに、シールドマシンの技術進化により、近年では真円以外にも、長方形や馬蹄型などさまざまな断面形状が可能となりました。
シールド掘削とその応用
シールドマシンを用いたトンネル掘削は、主に真円の断面を形成します。しかし、シールド技術の進化に伴い、現在では長方形や馬蹄形の断面も容易に掘削できるようになっています。特に道路トンネルでは、設計に応じて断面を分割し、上部には換気路、中央部に道路、下部に電気や排水施設を設けることが一般的です。
開削トンネルと沈埋トンネル
開削トンネルや沈埋トンネルでは、断面が箱形を取ることが多いです。箱形断面は、開削や沈埋施工の際に効率的であると同時に、トンネル内部の空間利用を最大化する点で優れています。これらのトンネルには、高度な防水・防潮対策や、堅固な支保構造が求められます。
トンネルの本坑と先進坑
本坑と先進坑の役割は、トンネル工事の成功に不可欠な要素です。最新の技術を駆使しながら、適切な設計と施工を行うことで、安全性と効率を両立させることが求められます。
本坑と先進坑の役割とその重要性
トンネル掘削において、主となるトンネルを「本坑」と呼び、その脇に並行して掘削される小断面のトンネルを「先進坑」と呼びます。この先進坑は、本坑の掘削に先行して行われることが多く、工事全体の進捗をサポートする重要な役割を果たします。不安定な地質の把握や水抜きのためのルートとしても利用され、トンネルが開通した後では、緊急時の避難路や定期保守の通路としても活用されます。
在来工法における先進坑の役割
トンネル掘削における在来工法では、まず「先進」として小断面の導坑を掘削し、その後で本坑の掘削に取り掛かる流れが一般的です。この際、ひとつの導坑(底設導坑)や二つの導坑(側壁導坑)を形成し、最終的には本坑の上半部と下半部を段階的に掘削します。このプロセスは、地質の安定性を高めるために不可欠であり、支保工を常に行いながら進められます。
地質調査と地質把握の重要性
トンネル掘削において、先進坑が担うもう一つの重要な役割が地質調査です。先進坑を掘削することで、本坑の掘削に先立って地質の特性を詳細に把握することが可能となります。これにより、適切な掘削方法や支保工の選定が行われ、工期の短縮とコストの削減が図られます。
緊急時の避難路および保守通路としての利用
トンネル開通後、先進坑は緊急時の避難路や定期保守の通路として大変重要な役割を果たします。緊急時には避難計画に基づき、速やかに安全な場所に避難するためのルートとして機能し、保守点検時には作業員の安全を確保しながら効率的な作業が行えるようになります。