擁壁設計の基本項目・荷重の考え方をプロがわかりやすく解説!

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擁壁の設計においては、構造的安定性を確保するために、地盤条件や材料特性、支持力など多くの要素を考慮する必要があります。とくに作用する荷重の種類とその評価は重要で、背面土圧・地震時荷重・水圧などを適切に見積もることが求められます。設計にあたっては、安全性だけでなく、施工性や経済性にも配慮した検討が欠かせません。基準書に沿った正確な設計は、安全で機能的な擁壁構築の第一歩です。
このページでは、擁壁の設計に必要な項目や荷重、ガイドラインについて解説しています。

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擁壁の設計に必要な項目

擁壁の設計は、構造の安定性と安全性を確保するために、多くの重要な要素を考慮する必要があります。以下に、擁壁の設計に必要な主要な項目について詳述します。

土圧

土圧は、擁壁設計において最も基本的で重要な要素の一つです。土圧は、擁壁に対して土がどれだけ力をかけるかを示します。この土圧は主に3種類に分けられます。

主働土圧(アクティブ土圧)
擁壁が土に対して動く際に、地盤が擁壁を押し出そうとする圧力です。この状態では、地盤は破壊する直前の限界に達しており、最も低い圧力となります。

静止土圧
擁壁が動かない場合に、土が擁壁にかける圧力です。この圧力は地盤が変形しない静的な状態で発生します。地下壁によく作用する圧力です。

受働土圧(パッシブ土圧)
擁壁が外からの力で土を押し入れる状態で、地盤が破壊寸前の極限に達した際の圧力です。これが働くと、土は擁壁に最大の抵抗力を示します。

地盤のせん断強さ

せん断強さは、土が滑り破壊を起こす際の最大抵抗力を示します。擁壁背面における斜面の安定性を確保する上でこのせん断強さを把握することは極めて重要です。土が自重で滑る力とこれに抵抗する力が均衡した状態での単位面積当たりの力としてのせん断強さが、この設計の鍵となります。

土かぶり圧

土かぶり圧とは、ある深さにおける土の重さを示すもので、通常kN/m²の単位で表されます。具体的には、土の単位体積重をその深さに乗じて求められます。地下水位以下の場合、水の浮力も考慮する必要があります。これにより、地下深くでの土圧を正確に見積もることができます。

土圧係数

土圧係数は、擁壁がどのように土の圧力を受けるかを示す指標です。一般に、土はせん断強さを持っているため、水中のように流れ出すことはありません。これにより、土圧係数を利用することで、壁体に働く土圧をより現実的に計算することが可能です。

まとめ/擁壁の設計

擁壁の設計は、以上の要素を考慮することで地盤と擁壁の間の力関係を正確に評価し、安全で安定した構造を提供することができます。設計には、地質学や土木工学の専門知識が不可欠です。また、実際の地盤の特性を正確に測定し、シミュレーションするための技術も高度に発展しています。擁壁設計は、ただ土圧を計算するだけでなく、地盤の性質、地下水の影響、材料の特性など、多岐にわたる要素を包括的に検討するプロセスとなります。

擁壁の設計に必要な項目を十分に理解し、適切な対策を講じることで、安全かつ耐久性のある構造物を実現することが可能です。

擁壁の設計における荷重

擁壁は、土壌や建物を支えたり土砂崩れを防ぐために設計される重要な構造物です。そのため、擁壁の設計には多くの荷重要素を総合的に考慮する必要があります。以下に各荷重要素の詳細を説明します。

自重

擁壁の自重は、擁壁自身の重さおよび擁壁底部に載る土の重さを算入します。これらは擁壁の基本的な構造安定性に直結するため、正確な計算が必要です。

表面載荷重

表面載荷重は、擁壁の上層やその周辺に作用する外部荷重を指します。特に戸建住宅の場合、一般的に10kN/m²程度の表面載荷重が想定されます。しかし、昨今の耐震化の進展に伴い、戸建て住宅の荷重が増加しているため、設計時には状況に応じて適切な見積もりを行う必要があります。また、擁壁の近くに構築物がある場合、その建物荷重も考慮しなければなりません。さらに、宅地擁壁にフェンスを設ける場合、フェンスの高さ1.1mの位置に約1.0kN/mの水平荷重が作用することが多いです。

背面土圧

土圧は、擁壁の背面から作用する力です。通常、クーロンの主働土圧理論が適用されます。擁壁の背面側には主働土圧が、前面側には受働土圧が作用します。受働土圧は主働土圧によって発生し、実際の設計では安全性を考慮し、主働土圧のみを計算に取り入れます。

地震時荷重

地震時には、擁壁自体の自重に起因する地震時慣性力と背後の土の地震時土圧を考慮しなければなりません。設計には、地震時土圧または擁壁の自重に基づく地震時慣性力と常時土圧を合わせた荷重のうち、より大きい方を選定します。擁壁の高さが5mを超える場合、行政指導に基づき大地震時の詳細な検討が行われることが多いです。

配筋

擁壁の配筋設計は、奥行き1mあたりで行われます。通常、擁壁の主鉄筋は30cm間隔で設置され、壁体に引張応力が作用する側に配置されます。主鉄筋に並行して配置される補強鉄筋の数は、主鉄筋の半分程度とします。

まとめ/擁壁設計の荷重要素

擁壁の設計には、このように様々な荷重要素を考慮する必要があります。これには、擁壁の自重、表面載荷重、背面土圧、地震時荷重、そして適切な配筋設計が含まれます。それぞれの要素を正確に理解し、適切に計算することで、安全で効率的な擁壁の設計が可能となります。また、現地の環境や用途に応じた設計を行うことが、長期にわたって堅牢な構造を維持するためには不可欠です。

擁壁の設計は細部にわたる注意深い検討が必要です。様々な荷重要素を考慮し、最新の設計基準や地震対策を組み入れることで、その強度と耐久性を確保することが求められます。

擁壁の設計ガイド

擁壁の設計には、多岐にわたる要素が絡み合っており、それぞれが擁壁の安定性を確保するための重要な役割を果たします。根入れ深さ、荷重の均衡、地盤の選定、鉄筋の継手や定着をしっかりと考慮することで、長期間にわたって安全に機能する擁壁が実現できます。これらの要素を適切に管理し、施工時には細心の注意を払うことで、擁壁の設計は成功に導かれるでしょう。

根入れ深さの重要性と基準

擁壁を安定させるためには、しっかりとした基盤に設置することが不可欠です。そのため、一定の深さまで擁壁を地中に埋め込む「根入れ深さ」が必要となります。根入れ深さは、通常35cm以上を確保し、さらに擁壁の設計高さ(構造計算から得られる高さ)の15%以上でなければなりません。近くに他の構造物がある場合、その影響を考慮して追加の対策を講じます。例えば、山留め工法や土留め工法が適用されることがあります。また、擁壁前面に水路がある場面では、水路管理者と協議を行い、河床を基準として必要な根入れ深さを確保します。

擁壁の荷重と力の均衡

擁壁には地盤からの土圧(主働土圧)が水平方向に作用し、この力に対抗するために擁壁自体の滑動抵抗力(Rh)が働きます。この二つの力は互いに逆向きで平衡を保ちます。また、垂直方向では擁壁の自重(W)とそれを支える地盤の反力(JN)が釣り合いを取ります。モーメントに関して言えば、水平力によって反時計回りの偶力モーメント(Mi)が発生し、垂直方向では時計回りのモーメント(Mr)によって全体の釣り合いが取れるよう設計されています。

地盤の選定と施工時の注意点

擁壁設置予定地の地盤は、地盤調査や土質試験により適切に評価されなければなりません。擁壁に求められる安定性を満たすためには、設計時に想定した地盤性状と現地の地盤性状が一致していることが必須です。設置面の地盤が想定と異なる場合、新たに調査と設計の見直しが求められます。

施工時には、必要以上の掘削を避け、地盤を乱さないよう細心の注意を払います。特にローム地盤のように鋭敏比(自然状態の地盤との強度比)が大きい地盤では、無理な掘削による支持力低下に気をつける必要があります。

鉄筋の継手および定着技術

主筋の継手は、擁壁の構造部において引張力が最も小さい部分に設けます。継手の重ね長さは、鉄筋径(異なる径の鉄筋を継ぐ場合は細い方の径)の25倍以上でなければなりません。ただし、引張力が最小の場所に継手を設けられない場合は、その重ね長さを40倍以上にします。また、底版と鉛直壁の境目に鉄筋継手が生じないよう注意し、継手は同一断面に集中させずに千鳥配置にします。

鉄筋の定着とは、壁体から底版など異なる部材を一体化するために、鉄筋の“のみ込み長さ”を設けることです。引張鉄筋の定着部分の長さは、鉄筋径の40倍以上を確保します。この長さが適切でないと、擁壁全体の強度に重大な影響を与えるため、非常に重要な要素です。