鋼構造物を製作するときに、溶接・接合は欠かせない技術であり、溶接・接合を管理する技術者は、溶接管理技術者認証基準が認めた資格者でなければなりません。その資格者を認定する試験が、溶接管理技術者試験です。溶接管理技術者を認定するレベルには、特別級、1級、2級があります。2級は、溶接施工・管理の基本職務能力を保有するレベル、1級は、溶接施工・管理の専門職務能力を保有するレベル、特別級は、施工・管理の統括職務能力を保有するレベルです。
溶接管理技術者試験の受験資格は、学歴と学校での専攻に応じて、必要な職務年数を溶接技術に専従した期間が経過して、受験資格を得ることができます。資格を得るまでの経験年数は、受験する溶接管理技術者の等級に応じて変わります。
溶接管理技術者とは
溶接管理技術者とは、溶接作業の監督指導や溶接一般の施工計画などの管理を行う作業者を認定する資格です。一般社団法人日本溶接協会が、資格の認定、試験の実施を行っています。
一般社団法人日本溶接協会が定めた規格であるWES8103「溶接管理技術者認証基準」に基づいて、資格が発行されます。
溶接管理技術者を認定するレベルには、特別級、1級、2級があります。2級は、溶接施工・管理の基本職務能力を保有するレベル、1級は、溶接施工・管理の専門職務能力を保有するレベル、特別級は、施工・管理の統括職務能力を保有するレベルです。
仕事内容
溶接管理技術者の仕事は、以下のような溶接作業前後の調整です。
- 溶接部材の材質確認
- 溶接ワイヤーの選定
- 溶接部(開先)の測定
- 溶接施工報告書の作成
- 工程打合せ
溶接管理者になるには
溶接管理者になるためには、一般社団法人日本溶接協会が実施する溶接管理技術者試験に合格する必要があります。溶接管理技術者試験を受験するには、学歴に応じた実務経験が必要です。
資格の登録・更新
溶接管理技術者資格は、試験合格後に、一般社団法人日本溶接協会に登録する必要があります。登録料は19,440円で、有効期間は5年間です。
資格を更新するには、有効期限内に、再認証審査を受ける必要があります。有効期限内に再認証審査を行わなかった場合は、資格が失効します。
溶接管理技術者に関連する資格
溶接管理技術者に関連する資格には、以下のようなものがあります。
- ガス溶接技能者
- ガス溶接作業主任者
- アルミニウム溶接技術検定
ガス溶接作業主任者については、下記の記事で詳しく解説しています。
溶接管理技術者試験 その1
溶接管理技術者試験は、一般社団法人日本溶接協会が実施しています。溶接管理技術者試験は、特別級・1級・2級の3つの区分に分かれており、すべての区分で、筆記試験と口述試験が行われます。
溶接管理技術者試験の内容は、各級とも、溶接方法及び機器・材料及び溶接冶金・構造及び設計・施工エンジニアリング・安全衛生・試験検査が出題されます。1級と2級は、筆記試験が2時間30分で解答し、2級は60%以上、1級は70%以上得点して合格すれば、口述試験に臨めます。
口述試験の内容は、記述試験で書いた内容を聞かれ答えることで、理解しているかどうかが評価され、合否が決まります。
特別級の場合は、筆記試験Ⅰと筆記試験Ⅱがあり、Ⅰは2時間30分で、1,2級と同じ溶接方法及び機器・材料及び溶接冶金・構造及び設計・施工エンジニアリング・安全衛生・試験検査からの問題です。Ⅱは、2時間で、材料と溶接性、設計基礎、施工方法、溶接法と機器についての問題を記述で解答します。合格の基準は70%以上の得点が必要で、筆記試験に合格すれば、口述試験で知識や職務能力、責任能力が問われ、きちんと解答できれば、特別級に合格します。
溶接管理技術者試験 その2
受験資格
溶接管理技術者試験を受験するには、学歴に応じた実務経験が必要です。
学歴又は認証 | 等級別の必要職務経験年数 | ||
特別級 | 1級 | 2級 | |
①理工系大学院修了者および理工系大学卒業 | 3(1) | 2(1) | 1 |
②理工系以外の大学院修了者および大学卒業者 | 6 | 4 | 2 |
③理工系短期大学および工業高等専門学校卒業者 | 6(5) | 4(3) | 1 |
④理工系各種専門学校および工業高等学校卒業者 | – | 7 | 2 |
⑤工業高等学校以外の高等学校卒業者 | – | 8 | 4 |
⑥上記学歴によらない場合 | – | – | 7 |
⑦1級認証者 | 3 | – | – |
⑧2級認証者 | – | 3 | – |
※( )内の数字は溶接専修と見なされる学校に適用する。 |
日程
溶接管理技術者試験は、毎年6月と11月の年に2回実施されます。
例えば、2021年は下記の日程でした。
- 受験受付:2021年3月11日(木) ~ 5月6日(木)
- 筆記試験:2021年6月6日(日)
- 口述試験:2021年7月3日(土)
- 受験受付:2021年8月1日(日) ~ 10月5日(火)
- 筆記試験:2021年11月7日(日)
- 口述試験:2021年12月4日(土)
試験地
筆記試験:札幌、東京、名古屋、大阪、福岡
口述試験:原則として東京、大阪
受験料
特別級
- 筆記試験IおよびII:26,400円(税込)
- 筆記試験IIのみ:13,200円(税込)
- 口述試験:27,500円(税込)
1級・2級
- 筆記試験:13,200円(税込)
- 口述試験:22,000円(税込)
試験内容
特別級
1級認証者については、筆記試験Ⅰが免除されます。
筆記試験Ⅰ:2時間30分
①溶接法、②溶接機器、③溶接冶金、④溶接材料、
⑤溶接力学、⑥溶接設計、⑦溶接施工及び管理、
⑧安全衛生、⑨試験検査
筆記試験Ⅱ:3時間
①材料・溶接性(必須)、
②設計(規格(ASME)問題2題の中から1題を選択)、
③施工・管理(規格(AWS)問題2題の中から1題を選択)、
④溶接法・機器
口述試験
①溶接施工・管理の経験・知識
1級・2級
筆記試験:2時間30分
①溶接法、②溶接機器、③溶接冶金、④溶接材料、
⑤溶接力学、⑥溶接設計、⑦溶接施工及び管理、
⑧安全衛生、⑨試験検査
口述試験(各級とも)
①溶接施工・管理の経験・知識
口述試験免除
1級と2級の口述試験は、協会が認めた研修会を受講し修了証書を取得すれば、免除されます。
試験で問われるもの
溶接管理技術者として問われる「任務及び責任」、「知識及び職務能力」について「JIS Z 3410(ISO 14731)」で規定されています。
〇任務及び責任
JIS Z 3410(ISO 14731)の本体4.1及び4.2、並びに附属書Bに記載された事項に基づいて製造事業者から割り当てられた任務と責任を果たさなければならない。
〇知識及び職務能力
・特別級
JIS Z 3410(ISO 14731)の本体6.1及び6.2 a)に記載された技術知識をもち、かつ溶接技術に関する包括的技術知識と経験、及び施工,管理などに関する統括職務能力を保有していなければならない。
・1級
JIS Z 3410(ISO 14731)の本体6.1及び6.2 b)に記載された技術知識をもち、かつ溶接技術に関する特定技術知識と経験、及び施工、管理などに関する専門職務能力を保有していなければならない。
・2級
JIS Z 3410(ISO 14731)の本体6.1及び6.2 c)に記載された技術知識をもち、かつ溶接技術に関する基礎技術知識と経験、及び溶接施工、管理などに関する基本職務能力を保有していなければならない。
溶接管理技術者試験 その3
合格基準
特別級
・筆記試験Ⅰ:全問の総得点が70%以上。
・筆記試験Ⅱ:全問の総得点が70%以上で、かつ各問題の得点が40%以上。
・口述試験:十分な責務能力、知識及び職務能力を有すると認められた場合。
1級
・筆記試験:全問の総得点が70%以上。
・口頭試験:十分な知識及び職務能力を有すると認められた場合。
2級
・筆記試験:全問の総得点が60%以上。
・口頭試験:十分な知識及び職務能力を有すると認められた場合。
合格率
2012~2018年における溶接管理技術者試験の平均合格率は、2級で62.1%、1級で29.3%、特別級で20.9%です。
特別級の合格率(2012~2018年)
特別級 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2012年 | 108 | 26 | 24.1% |
2013年 | 117 | 24 | 20.5% |
2014年 | 115 | 28 | 24.3% |
2015年 | 142 | 21 | 14.8% |
2016年 | 150 | 36 | 24.0% |
2017年 | 186 | 41 | 22.0% |
2018年 | 174 | 31 | 17.8% |
1級の合格率(2012~2018年)
1級 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2012年 | 1,492 | 604 | 40.5% |
2013年 | 1,428 | 359 | 25.1% |
2014年 | 1,392 | 436 | 31.3% |
2015年 | 1,521 | 500 | 32.9% |
2016年 | 1,689 | 576 | 34.1% |
2017年 | 1,827 | 388 | 21.2% |
2018年 | 1,812 | 405 | 22.4% |
2級の合格率(2012~2018年)
2級 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2012年 | 2,403 | 1,635 | 68.0% |
2013年 | 2,186 | 1,364 | 62.4% |
2014年 | 2,357 | 1,577 | 66.9% |
2015年 | 2,458 | 1,468 | 59.7% |
2016年 | 2,807 | 1,654 | 58.9% |
2017年 | 2,865 | 1,805 | 63.0% |
2018年 | 2,662 | 1,516 | 56.9% |
溶接管理技術者試験の勉強方法
過去問を繰り返し解く
溶接管理技術者試験の勉強法は、8年分の過去問題集を繰り返し勉強するのが、一番の勉強法でしょう。出題分野が限られているため、過去問に繰り返し出題される分野の問題も多く、数年分を繰り返し勉強することで、溶接に必要な分野に詳しくなるでしょう。そのためには、問題の解答が解説が詳しい参考書を使うことで、不明箇所をなくすことができます。また、不明な言葉があれば都度調べ、マスターすることで、記述問題にあやふやな解答を書かずに済み、合格に近づきます。
テキスト・問題集については、下記ページで紹介しています。
専門用語を覚える
筆記試験は、記述式試験です。言い方は覚えていたとしても、溶接技術に関する正確な用語で書けなければ、得点が得られません。
溶接管理技術者研修会に参加
1級と2級の口述試験は、溶接管理技術者研修会に参加することで、免除されます。口述試験に自信がなければ、免除制度を利用するのも試験対策になります。
溶接管理技術者研修会は、1級と2級でそれぞれ異なり、1級は4日間、2級は3日間、検収を受けます。講義内容は、等級によって異なりますが、溶接法と溶接機器・金属材料と溶接性・溶接部特性・溶接構造力学設計・溶接構造物の品質・溶接施工管理などが講義されます。講義終了後に、修了試験が行われ、合格すれば溶接管理技術者認証研修会済みの証明書が渡されます。
この証明書があれば、溶接管理技術者試験の口述試験が免除され、筆記試験にだけ集中できます。ただし、筆記試験の記述内容があまりよくないと、技術がまだ疑問と見なされ、研修会済みでも、口述試験の受験が必要になります。