木造建築において安全性と耐震性を確保するためには、構造計算の正確な実施が不可欠です。特に梁や柱、基礎の仮定断面の設定と、各部材にかかる応力やたわみの把握が重要です。構造計算には、許容応力度計算や限界耐力計算など4種類の代表的な手法があり、建物の規模や目的に応じて適切なルートを選定する必要があります。それぞれの計算法には特徴があり、使い分けのポイントも異なります。このページでは、木造構造計算の基本と4つの計算ルートについて解説しています。

木造の構造計算の基本:部材の許容応力度、梁の応力とたわみ
未曾有の大地震を経験してきた日本において、昨今の木造住宅に対する耐震性の要求は、非常に高くなっています。木造住宅構造計算は欠かすことのできない要素であり、4号建築物に該当する場合でも、構造の検討は必要となります。仕様規定に基づいた設計の検討に効力を発揮するのが、木造構造計算ソフトです。
木造構造計算での部材の許容応力度
木造構造計算での許容応力度は樹種ごとに決められた基準強度に安全率を乗じて算定を行います。このようにして求めた許容応力度が部材に発生する応力度を上回ることを確認して安全性の確認を行います。
基準強度は、樹種ごとに建築基準法の告示により値が定められています。樹種以外にも製材か集成材によっても基準強度は変わります。製材には日本農林規格(JAS)が規定するJAS材と呼ばれるものと、無等級材の2種類があり、それぞれ基準強度が異なります。集成材は、ラミナ(挽き板)の種類や構成により基準強度が異なります。
木材の許容応力度は、鉄筋コンクリートや鉄骨と同様に長期と短期の2種類があり、それぞれ基準強度に乗ずる安全率が異なります。ただし、積雪荷重時は長期許容応力度を常時の1.3倍、短期許容応力度を地震・風荷重時の0.8倍とする点に注意が必要です。
木造の構造計算では許容応力度の算定の仕方が鉄筋コンクリート造や鉄骨造と異なる点があります。これらに対応したフリーソフトがダウンロード可能ですのでぜひ活用しましょう。
木造構造計算での梁の応力とたわみの検討方法
①応力の検討
梁の断面算定では部材に生じる応力とたわみ量(変形量)と検討を行う必要があります。応力は、部材に地震などの外力が生じた際に、部材内部に生じる力のことで内力ともいいます。応力は軸力、曲げモーメント、せん断力の3種類がありますが、梁の断面算定では、一般的に曲げモーメントとせん断力に対して検討を行います。
部材に生じた曲げモーメントとせん断力からそれぞれ曲げ応力とせん断応力を算定し、その値が部材の持つ許容応力度以内に納まっているかを確認します。ただし、一般に単純梁の場合は曲げモーメントによる応力で部材断面のサイズが決定することが多いため、仮定断面の段階では曲げモーメントによる検討のみを行うことで問題ありません。局所的に大きな集中荷重が作用する場合はせん断力により部材断面が決定することがあるため注意が必要です。
応力の算定は、荷重形式や支持条件により算定方法が異なるため、ご自身がよく使用する公式に対応したフリーソフトを活用すると便利です。
②たわみの検討
部材に外力が加わると部材は変形します。この変形のことをたわみといいます。部材に生じる応力度が許容応力度以内に納まっていても、たわみが過大となると、床の振動などの問題が生じるため確認が必要となります。
部材のたわみにはヤング係数と断面二次モーメントが影響します。ヤング係数とは材料の固さを示す値位あり、木材の場合、材種によって異なった値となります。例えば、スギのヤング係数Eは7000N/mm2ですが、ベイマツのヤング係数Eは10000N/mm2と大きい値となっています。
ヤング係数が大きい値となるほど固い変形しにくい材料であることを示します。また、断面二次モーメントは部材断面の形状による変形のしにくさを示す値であり、長方形断面の場合、断面二次モーメントI=b×h3/12(b:幅、h:せい)となり、大きい値となるほど、変形しにくくなります。なお、ヤング係数Eと断面二次モーメントIを掛けた値を曲げ剛性といい、EIと表します。
たわみの許容値は建築基準法ではスパンに対して1/250以下とされていますが、仮定断面の段階では1/600程度以下かつたわみ量20mm以下とすることがよいでしょう。また、たわみの算定ではクリープと呼ばれる、時間の経過とともに変形が増大する現象を考慮する必要があります。
木造構造計算ではこのクリープを考慮して変形量の割増係数(変形増大係数)を2として、たわみに対する検討を行う必要があります。フリーソフトを使用する場合は変形増大係数がきちんと考慮されているかよく確認しましょう。
木造構造計算での梁・柱・基礎の仮定断面の算定
木造構造計算での梁の仮定断面の算定
ここでは、単純梁の仮定断面の算定方法について説明を行います。
①検討条件の整理
以下の条件の確認を行います。
・荷重条件(固定荷重、積載荷重、荷重形式など)
・材料条件(材種、許容応力度、ヤング係数など)
・部材条件(スパン、断面形状など)
なお、一つの梁に様々な荷重が作用する場合には応力やたわみの算定が複雑となるため、仮定断面の段階では計算を容易にするため、荷重を安全側となるようにまとめてもよいです。
②たわみの検討
木造の梁の断面算定では、一般的にたわみの制限により断面が決定することが多いです。そのため、まずたわみの検討を行い断面を設定した後に、曲げモーメントに対する検討を行うと効率がよいです。たわみの検討では、スパンの1/600以下かつたわみ量20mm以下とするために必要な断面二次モーメントを求めます。この断面二次モーメント以上の断面性能をもつ断面を一般流通材の断面性能表から選びます。
③曲げモーメントに対する検討
たわみの検討により求めた断面形状で、曲げモーメントに対する検討を行います。検討の結果、曲げ応力度が許容曲げ応力度以下となっていれば仮定断面算定は完了です。曲げ応力度が許容曲げ応力度を上回る場合には、断面形状を見直すか、基準強度の高い材種に見直します。これらの構造計算を手計算で行うと非常に手間がかかります。木造に対応した様々なフリーソフトがダウンロード可能ですので、ぜひ活用しましょう。
木造構造計算での柱の仮定断面の算定
建築基準法では柱の小径や有効細長比に対する制限があります。柱の小径については、柱の寸法/横架材間の距離を階数や建築物の構造形式により1/20~1/30に制限しています。また、有効細長比は座屈長さ/断面二次半径を150以下に制限しています。いずれも柱を座屈させないようにすることが目的です。
仮定断面の算定では全ての柱について検討を行う必要はありません。一般的には、内柱の場合は負担面積が大きく、荷重条件が最も大きくなる1階の柱を選定して軸力に対する検討を行います。外周部柱の場合は軸力だけでなく、風荷重・地震荷重による水平力の影響もあるため曲げの影響も考慮して検討を行います。その他、吹き抜け部の柱など特殊な部位についても別途検討が必要です。
①内柱の断面検討
内柱の検討では一般に軸力に対して検討を行います。柱の座屈長さと断面から有効細長比を算出し、長期許容圧縮応力度を求めます。この長期許容圧縮応力度が負担面積から求めた圧縮応力度を上回っていることを確認します。逆に、柱の許容圧縮応力度から負担可能な床面積を求め、柱の負担面積が負担可能な床面積以下となっているか確認を行うことも可能です。
②外柱の断面検討
外柱の検討では、軸力に加えて風・地震荷重時の曲げモーメントの影響を考慮する必要があります。このとき、長期許容応力度は基準強度の1.1/3倍ですが、短期許容応力度は2/3倍となるため、鉄筋コンクリートや鉄骨と異なる点に注意が必要です。軸力による圧縮応力度と曲げモーメントによる曲げ応力度の和が短期許容応力度以下となっていることを確認します。柱の構造計算は梁以上に複雑です。ぜひフリーソフトを活用して効率よく検討を行いましょう。
木造構造計算での基礎の仮定断面の算定
これまで柱や梁などの上部架構の断面検討を行いましたが、上部架構の荷重を地盤に確実に伝達するために基礎の検討も必要となります。地盤の地耐力は地盤調査会社により実施します。調査方法は小規模な木造建築の場合スウェーデン式サウンディング試験により行うことが一般的です。
得られた地盤調査結果より基礎形式を決定します。ここでは、小規模木造建築に一般的に採用されるべた基礎と布基礎の仮定断面の算定方法について説明します。
①べた基礎
べた基礎では柱直下に地中梁を配置して耐圧盤の負担面積を経済的かつ地耐力以下となるように区画します。吹き抜け部など柱がない箇所は耐圧盤の負担面積が大きくなりすぎるため、小梁を配置します。耐圧盤には、上部建物重量による地反力が鉛直上向きに作用します。
この鉛直上向きの分布荷重による曲げモーメントに対して、必要な耐圧盤厚さと鉄筋量を求めます。続いて、地中梁にも耐圧盤と同様に地反力による鉛直上向きの分布荷重が作用するするため、曲げモーメントに対して必要な地中梁せいと鉄筋量を求めます。
②布基礎
布基礎の場合もべた基礎と同様に柱直下に地中梁を配置します。次に、上部建物重量と地耐力からフーチング幅を決定します。地耐力の検討には基礎自重とフーチング上の埋戻し土の重量を考慮します。続いて、地反力により地中梁とフーチングに生じる曲げモーメントから地中梁せい、フーチングの厚さと鉄筋量をそれぞれ求めます。
木造構造計算のフリーソフトの中には基礎の検討に対応したものもあります。上部架構だけでなく基礎の構造計算も非常に重要ですので、基礎の検討に対応しているかよく確認しましょう。
木造の構造計算の4種類の手法
木造住宅の構造計算では、以下のような4種類の手法が用いられている。これらの手法は、建物の安全性と耐久性を維持するために欠かせないものとなっている。設計段階で正確な計算を行うことで、災害などのリスクを軽減し、住まいの信頼性を高めることができる。構造計算の技術は日々進化しており、現代の木造建築においても重要な役割を果たしている。
1.許容応力度計算(ルート1)
2.許容応力度等計算(ルート2)
3.保有水平耐力計算(ルート3)
4.限界耐力計算・時刻暦応答解析(ルート4)
許容応力度計算(ルート1)
許容応力度計算(ルート1)は、建物の安全性を担保するための計算手法である。この計算は、建物の自重に加え、地震や台風などの外部からの力が作用した際に使用される材料がその耐力を超えないことを確認するために行われる。
建物の自重とは、その構築に使用された材料や構造全体の重みを指し、地震や台風時の応力はそれらの自然災害から受ける外力を意味する。これにより、建物が通常の使用状況や自然災害発生時でも安全に機能することを確認することが計算の目的である。
この計算手法は、次のような条件に該当する場合に特に重要である。例えば、建築物が3階以上である場合、延べ面積が500平方メートルを超える場合、または仕様規定の一部を適用除外とする場合などに重要となる。
許容応力度計算では、建物の各構成要素にかかる応力を算出し、各部材の許容応力度を超えないことを確認する必要がある。特に木造建築物では、耐力壁や床などの複合要素が水平力を分担するため、これらの許容せん断耐力や接合部の許容引張耐力をモデル化し、整理する必要がある。
具体的な検討内容には、以下のような項目がある。
①水平力に対する検討
建築基準法施行令第3章第3節の仕様規定に基づき行われ、以下の項目が含まれる。
・地震力や風圧力に対する耐力壁の許容せん断耐力の検証
・柱の短期軸力に対する柱頭・柱脚接合部の許容引張耐力の検証
・水平構面及び横架材接合部の検証
・土台の曲げ、アンカーボルトの引張およびせん断の検証
②鉛直荷重および局部荷重に対する検討
同様に建築基準法施行令第3章第3節の仕様規定に基づき行われ、以下の項目を検討する。
・横架材の曲げおよびたわみに対する断面検証
・横架材のせん断に対する断面および端部の検証
・柱の座屈および面外風圧力に対する断面検証
・柱軸力による土台の沈み込みの検証
・負の風圧に対する垂木断面および垂木・軒桁接合部の検証
・屋根ふき材の検討
③地盤および基礎に対する検討
建築基準法施行令第38条および関連告示に基づき、地盤および基礎の耐力についても検討が行われる。
許容応力度計算(ルート1)の理解と適用は、建物の安全性を確保するための基礎知識として極めて重要である。この計算を通じて、建物があらゆる状況下でその性能を十分に発揮し、利用者の安全を守ることが期待される。
許容応力度等計算(ルート2)
建物の構造計算において、ルート1の計算に続いて実施されるのが許容応力度等計算(ルート2)である。この計算では、構造物の変形や安定性を詳細に評価し、基準内であることを確認する。これにより、建物が過度に歪んだりバランスを崩したりせず、安全に使用できることが保証される。
ルート2の計算をクリアした建物は「構造計算された建物」として認識され、高度な安全基準を満たしていることになる。特に、高さ13メートル以上または軒高9メートル以上の建物については、更に厳しい基準である保有水平耐力計算(ルート3)や、剛性率・偏心率の評価および靱性の確保に関する確認といった追加の計算も必要となる(建築基準法第3章第8節第1款の各号)。
特に、木造建築物におけるルート2の計算では、筋かいの水平力負担割合や応力割増しの評価に加え、筋かいが割裂きやせん断破壊を引き起こすリスクの確認も求められる。1980年に制定された建告1791では、これらの詳細な計算基準が具体的に示されている。
これらの厳格な計算手続きを通じて、建物全体の構造的な堅牢さが確保され、長期にわたり安全に使用できることが制度的に保証される。以上のように、許容応力度等計算(ルート2)を実施することで、建物は高い構造的安定性を持つことが認められ、安全性能が一層確かなものとなる。
保有水平耐力計算(ルート3)
建物の安全性を確保するためには、大地震が発生した際に建物が部分的に損傷しても完全に崩壊しないことを確認することが不可欠である。そのためのアプローチの一つが「保有水平耐力計算(ルート3)」である。
特に地震活動が活発な地域において、この計算は建物の耐久性を高め、災害に対する安全性を保証する上で重要な役割を果たすことになる。日本でも建築基準法に基づき、高さ13m以上または軒高が9mを超える建物、さらに31mを超える建物に対して、この性能検証が義務付けられている。
保有水平耐力計算は、建築基準法第3章第8節第1款の2に規定され、大地震時の建物性能を評価するための具体的な手法となっている。計算を通じて、建物が予測される最大の地震動に対しどれだけの耐久性を持つかを詳細に検証し、必要に応じて構造補強や設計変更を行うことが可能になる。
この計算手法により、建物の安全性能が科学的かつ客観的に評価され、住民や使用者の安全が確保される。結果的に、社会全体に対する安心感と信頼性の向上をもたらし、地震大国である日本において非常に重要な意義を持つシステムと言える。
限界耐力計算・時刻暦応答解析(ルート4)
建築物の耐震性能を評価するうえで、限界耐力計算と時刻暦応答解析(ルート4)は、非常に重要な役割を果たしている。これらの高度な解析手法は、建物の強度や地震時の応答を詳細に把握するために用いられる。
限界耐力計算は、建物がどれだけの力に耐えられるかを評価する方法である。この手法では、最大限の荷重が建物にかかる状況を想定し、その強度を計測する。一方、時刻暦応答解析では、地震が発生した際の建物の動きを時間の経過とともに追跡し、その応答を分析する。
これらの解析手法は、建物の規模や構造にかかわらず、多様なケースに対応できる柔軟な検証方法である。特に大地震動や中地震動に対しても確実な検証が行える。
具体的には、建築部材の荷重変形関係や複合構成要素の耐久性を試験データとして活用し、安全限界や損傷限界を明らかできる。これは建築基準法令第3章第8節第1款第3項に基づいて行われる。
以上の手法を用いることで、建築物の耐震性能を総合的に評価し、安全性を確保するための重要な基盤を築くことができる。